「Time After Time」

「シーズ・ソー・アンユージュアル」シンディ・ローパー


「ベスト・コレクション」タック&パティ



 シンディ・ローパーの大ヒット曲だそうな、ということもカルチャースクールの課題曲になって初めて知った。歌いだしの歌詞がとにかく秀逸。

 Lying in my bed I hear the clock tick,think of you
 (ベッドで時計の音を聴きながら、あなたのことを想う)
 Caught up in circles confusion is nothing new
 (考え出すと混乱してくる、いつものことだわ)

 シンディ・ローパーが歌う「負け犬の遠吠え」ソング。彼女が一人寝のベッドで思い出すのは、優しかった男の胸。「これでよかったのよね」と自分の成功や人生を肯定しつつも「恋人と過ごすはずだったもう一つの人生」に想いを馳せる。後悔、未練、彼の「もっとゆっくり行けよ」という言葉がぐるぐる回る。でも答えは出ない。過去には戻れない。

 出だしの少し甘ったれたかすれ声と、昔の男に「何かあったら支えてあげるわ!」と言い切るサビの対比。シンディ姐さんは「ツンデレ」確定である。

 さて、T先生に勧められたタック&パティのカバーバージョンも聴く。たっぷりした太いパティの声が「オッサン!?」とビビらせてくれるものの、「If you fall,I’will catch you(あなたが倒れたら、私が受け止めるわ)」という約束に、肝っ玉かあさんのような信頼感がある。

 夫であるタックが、ドラムとベースまでいるかのような音空間をギター1本で作り上げ、その空間に抱かれて妻のパティがエモーショナルに歌い上げる。リフレインで上り詰めるような夫婦の音の絡み合いの濃さに、呼吸を忘れる。

 もはや夫婦愛、家族愛、人間愛にまで昇華したタック&パティの「Time After Time」。名カバーと言われるのに深く納得しつつも「原曲を超えた」とは言いたくない。

 シンディ姐さんに言わせれば「お前ら、イチャイチャ歌ってんじゃねーよ」と、舌打ちの一つもしたくなるはずだ。荒野をピンヒールで一人ゆく、バリキャリ女の残した「Time After Time…」のため息。仕事を取ってオトコを捨てた経験のあるオンナの傷口に、そっと塩を塗ってくれる。

 ヒリヒリしながらも、彼女はいつまでも泣いてなんかいない。ベッドを抜け出して派手な化粧をし、ステージで弾けて見せる。

 これが仕事ってもんよ、お嬢ちゃん達、というように。